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アバールデータの過去、現在、未来を
嶋村社長に聞く

嶋村

 パソコンや携帯電話機、デジタル・カメラ、液晶テレビ、DVDレコーダーなどを購入するときはいつも、頭の中を嫌なことがよぎらないだろうか。それは「2〜3年経つと、もっと安くてもっと良いものが買える」という想像だ。いや想像ではない、事実なのだ。今、ある家電製品を購入する。すると2〜3年後には同じくらいの価格でもっと良い製品が店頭に並ぶ。そして悔しい思いをする。かといって買わないのはもっと悔しい。葛藤の末に、あなたは決断することになる。悔しいのはもっともだが、これこそが、電子機器が進化し続けてきた証なのだ。  この進化を支えてきたのが、半導体デバイスや液晶パネルなどである。半導体デバイスの計算速度が高まり、扱えるデータ量が増えた。液晶パネルは大型になり、解像度が高まり、フルカラーの色数が増えた。それでも、半導体デバイスや液晶パネルなどの価格は上がらない。むしろ、下がってきた。この結果、電子機器は同じ価格で、より多くの機能を、さらに高速に処理できるようになった。半導体デバイスや液晶パネルなどの改良に欠かせないのが、製造装置や検査装置などの進化である。半導体デバイスや液晶パネルなどを作るためには、きわめて性能の高い装置が必要になる。  アバールデータは、こういった製造装置や検査装置などが内蔵する、制御モジュールや画像処理モジュールなどを主力製品としてきた。これらのモジュールは、製造装置や検査装置などの性能を大きく左右する。当然ながら、モジュールの開発には高い技術開発力が求められる。アバールデータは大企業ではない。本社と開発拠点を東京都の町田に、製造工場を神奈川県の厚木に置く、従業員数が300名(連結ベース)ほどの中堅企業だ。その中堅企業が、世界トップレベルの製造装置や検査装置などの心臓部を開発し続けてきた。 同社の代表取締役社長を務める嶋村清氏に、現状と将来展望を訊いた。

最先端デバイスの製造を支える

― アバールデータの製品はどういった分野で使われておりますか。
嶋村: 半導体製造装置や半導体検査装置、液晶検査装置、産業用ロボット、X線検査装置、電子顕微鏡などです。売り上げの8割は、製造装置や検査装置などの分野が占めています。装置の開発において、演算部と制御部を主にアバールデータが担当しています。

― おうかがいしました製造装置や検査装置の分野では、世界的にみると日本企業が強いですね。そうしますとアバールデータのお客様には、日本企業が多いのでしょうか。
嶋村: お客様のほとんど、99%以上が日本の企業です。装置開発では常にハードルがあるので、様々なやり取りが発生します。このため、きめ細かな対応が必要です。同じ国内の企業でなければ、円滑な開発は難しいでしょう。

― 新機種の開発では、どのようなハードルがありますか。
嶋村: 例えば半導体の超微細化と大容量化に合わせて、検査装置の処理性能を高める必要があります。新機種で検査時間が延びることは許されません。検査時間が延びることは、製造コストの増加を意味しますから。したがって演算部と制御部の処理性能も向上させることを要求されます。

自社製品と受託製品が相乗効果を上げる

― 具体的には、どのような製品を提供しているのでしょうか。

嶋村: CPUモジュールや画像処理ボード、通信ボードなどです。ハードウェアであるボードそのものと、ボードを動かすソフトウェアの両方を開発し、お客様にお納めしています。アバールデータのブランド名で販売している自社製品と、お客様のご要望に応じて仕様を決めて開発する受託製品とがあります。

― 自社製品と受託製品は、アバールデータにとってどのような違いがあるのでしょうか。
嶋村: 自社製品には、新しい技術を先行して自分のモノにするための、先行開発という意味合いがあります。実際の製品開発で新しい技術を取り込んでいくのです。一方、受託製品には、お客様の厳しいご要求や切実なお悩みなどにお応えすることにより、非常に深みのある開発を経験できるという大きなメリットがあります。例えばシステム全体の最適化に関する理解は、受託開発を経験することで非常に深みのあるものとなります。

― 自社製品と受託製品の両方を開発することによる、相乗効果はありますか。
嶋村: 極めて大きな相乗効果があります。  自社製品のモジュールやボードなどは新しい技術を取り込んでいるので、お客様に受託製品の案件を提案しやすくなります。また、お客様からみると実際のボードが見えていますので、開発案件の相談をしやすいのです。それから受託開発のベースに、自社製品を使えるという利点もあります。ボードがすでに存在しますので、開発に素早く取り掛かれます。  受託製品の開発では、お客様の声を直接伺えます。これが自社製品を次に開発するときに、非常に参考になるのです。また私どもの技術者が、お客様によって鍛えられる。鍛えられることによって技術者は成長します。このことが、大きな財産となります。  現在では、自社製品と受託製品はクルマの両輪のような関係になっていると言えるでしょう。

制御、画像、通信がスクラムを組む

― 技術分野ですと、どの分野を得意としておりますか。
嶋村: 組込み制御、画像処理、通信の三つの分野です。製造装置や検査装置などに通じており、この三つの技術をすべて保有している企業は日本国内ではほとんどないと自負しています。最近では、組込み制御と画像処理、通信処理の三つを組み合わせたシステムが要求されるようになってきました。例えば搬送系の動きに画像認識の結果をフィードバックさせる。しかもホストと通信しながらです。製造あるいは検査のプロセスごとに、制御と画像、通信が有機的に結合して処理が進む。こういったシステムの開発では、制御担当、画像担当、通信担当が三つの企業に分かれているよりも、一つの企業にまとまっている方がシステムを最適化しやすいのは明らかです。

― 研究開発投資については何かお考えがございますか。
嶋村: 好不況に関わりなく、ほぼ一定の金額を研究開発費にしております。売り上げに対する固定的なパーセンテージですと、売り上げの変動によって研究開発費が変動してしまうので、好ましくないと考えています。

― 製造拠点が神奈川県厚木にあります。全製品を社内で製造しているのでしょうか。
嶋村: おおよそ6割を社内で製造し、残りの4割を外部に委託しています。社内で5割〜6割を製造する「モノ作り」の態勢は今後も維持していくつもりです。アバールデータが供給する製品は、5年〜10年といった長い年月にわたって装置の中で稼働していきます。不良解析や品質管理などの面では、社内に製造ラインがあることが非常に役立つのです。それから製造期間を短縮したり、有害物質の使用規制(RoHS指令)に対応したりといった活動でも、社内における製造ラインの存在が欠かせません。

新しいことに次々と挑戦する

― アバールデータの2〜3年先の姿を教えてください。

嶋村: 2014年3月期が終了した時点でのあるべき姿を描いた、3年間の中期経営計画を策定しました。連結売上高95億円、売上高経常利益率14%以上、株主資本利益率(ROE:Ruturn on Equity)10%、連結配当性向(1株当たり配当額/1株当たり当期純利益)30%を目標に掲げております。  2011年度以降の3年間は、激変する市場環境に対応しながらさらなる飛躍を目指します。

― もう少し詳しく、お考えをお聞かせください。
嶋村: 具体的には現在の半導体、FA関連及び電力・制御装置における売上を維持しながら、テラストレージ、スマート電源、スマートカメラ、高速アナログ関連などの新製品によって新規事業分野を拡大してゆき、この構成比率を現在の25%から45%に高めていきます。  さらに外部との技術提携、販売提携を推進し、他社の技術リソース、販売チャネルを活用するため、このような効率の良いパートナーシップを強化してゆきます。また東アジアを中心とする海外戦略においてもこれらをさらに推進し海外戦略の重要なキーワードとしてまいります。  また製品戦略では、市場環境が激変しているなか、現在の「超高速」だけでなくコストパーフォーマンスも追求し、当社の得意分野である画像・計測通信機器分野においては、ここにおけるハイエンド製品のシェアーアップを目指します。そしてこれらの製品展開のキーになっている当社の最大の強みであるハイブリット技術(総合技術)の優位性を最大限に生かし、世界最高速の製造・検査装置を実現できる唯一の国内メーカーとして社会に貢献してゆきたいと思います。

―本日はどうもありがとうございました。